それぞれのファッションショー
早稲田大学のファッションサークルは主に3つある。
1つ目は、繊維研究会。1949年設立の老舗ファッションサークルである。
2つ目は、「早稲田祭」においてWasedaCollectionを展開する「学生団体わせプロ」。スーパーフリー関連事案によって永遠に廃止されることになったミス早稲田を、ファッションショーという形で甦らせた近年大学内外から注目されているサークルである。
そして、3つ目は「ENJI」
2009年に”ファッションデワセダヲカエル”をコンセプトに設立されたサークルである。
それぞれ、「わせプロ」は「Waseda Collection」を、「ENJI」は「triENgle」というファッションショーを開催しているが、それぞれのサークルのコンセプトにはどのような違いがあるのだろうか?
まず「Waseda Collection」から見ていこう。
これは、毎年度早大生の中から選ばれる10名弱のモデルとデサイナーがタッグを組み、文芸祭でのプレイベント、早稲田祭当日のメインイベント(ファッションショー)と慌ただしく動いていく。また、このイベントは、「ワセジョはださい」というイメージを払拭するためのものであり、学外に向けた広報としての役割を担う部署も存在していることから、早稲田の女の子の華やかなイメージを外部に見せるためのファッションショーであるといえる。そして、そのためにはまず早大生に「Waseda Collection」のことを知ってほしいと思っているからこそ、早大生しか見に行かない文芸祭でプレイベントを実施しているのである。
高校時代の友達と連絡を取り合っている人も多いことから、早稲田祭などで他大学の人が「早稲田のミスコン(?)」を見に来てくれることも多いだろう。
これに対する「ENJI」は出版系サークルであることもあり、早稲田祭でファッションショーを行うことはない。
週一回のミーティングをおもとしているこのサークルは、主にフリーペーパーの作成がメインの活動である。これまで10号のフリーペーパーを作成してきているが、キャンパス内のスナップ写真なども多く、本気で早大生のファッションの意識改革を目指していることを窺い知ることができる。
唯一のファッションショーは毎年6月に行っている「triENgle」であり、ここではモデルとなる早大生がそれぞれ、「70’s」「90’s」「現代」などのジャンルに分かれたり、キャンパスや学部ごとにモデルを少数輩出してショーを行っている。
(ちなみにサークルとのコラボがあるのは驚きだ。複数のサークルを呼ぶことでイベントの成功により近づく可能性が高まるのは放送研究会の番組発表会が証明している。)
もうワセジョが可愛くないなんていう人はいない?
「わせプロ」の目指す先には、「ワセジョは美人がいない、という先入観を取り払いたい」というものだろう。多くの広報媒体は大学の外にも向いていて、Twitterの「輝くワセジョ」アカウントで他大生でも綺麗な女子学生を見ることもできる。一年間を通して一人ひとりの露出を多くして、宣伝を続けていく姿勢には、著名アナウンサーを多数輩出している「ミス慶應」や「ミス青山学院」などに対抗しようという意欲さえも感じられるのである。
しかし、これは強固な広報活動の上に成り立つ意味を失ったファッションショーであるという指摘もされている。
僕らの中で、「早稲田大学の女子学生はみんな可愛くない」という考えを持っている人がどのくらいいるだろうか。
あるいは、「早稲田大学の女子学生はみんなファッションに見向きもしない」という考え方を持っている人がどれだけいるであろうか。
2007年に早稲田祭に突如現れた「Waseda Collection」という大学の学園祭でも稀なファッションショーはここ10年弱の間に「ワセジョはかわいくない」という時代遅れのイメージを一蹴させた。今では、「早稲田大学出身の女子学生は芯を持っているのに加え、女性らしさも持っている」という声は大学生よりも上の世代から顕著に聞こえてくる。
ここで問うことは、「果たしてWaseda Collectionはワセジョの解放という使命を終えてしまったのか?」ということである。服を着飾り、ランウェイを歩き、ポーズをとって、「ワセジョは可愛い」と声高に叫ぶのにもしも現役早大生が飽き飽きしているとしたら、「Waseda Collection」はファッション以外のものを付加されるべきなのかもしれない。
かたや「ENJI」のアプローチはいたってシンプルだ。
彼ら彼女らは、いわゆる「舞踏会用衣装」といったジャンルに手を伸ばそうとしてはいない。得意分野は、早大生が”大学生らしいファッション”を開拓していくことである。6月に行われるファッションショー「teiENjle」では、モデルは普段着用している私服で登場する。「男性モデルも含めて」「それぞれが片意地張らない」「大学生らしいファッション」を目指す「ENJI」にとって、学生目線でファッションについて考え、広報活動を通じて他の学生を感化させることは使命ともいえるだろう。
合言葉は「身近なファッション」
まとめると、「わせプロ」は非日常的な空間づくりとドレスによるゴージャスなファッションを、「ENJI」は身近にあるファッション改革と早稲田のサークル同士の結びつきを最優先に考えているだろう。
「Waseda Collection」に選ばれたシンデレラガールによるシンデレラストーリーは大隈講堂前ステージで見ている人たちを酔わせるかもしれないが、その酔いは早稲田祭の打ち上げでの酔いと一緒に頭の中から消えてしまうかもしれない。
早稲田にファッションの文化を根付かせるために大事なのは、構内でのスナップだったり、馬場歩きの途中にある古着屋と一緒に記事を書いてネットに掲載したり、ヘアメイクについての特集記事を書いたりといった地味な仕事である。
2つのサークルの正反対の考え方は、果たして早稲田にどんな新しい風を吹き込むのか。
早大生が自分達を磨いていく力には果てしないポテンシャルがあることを祈ろう。