その男は、大きな黒いバッグを背負ってやってきた。小柄な女性なら1人は入れるかというようなバックパックだ。
自分のことを『榊原』と名乗った彼こそが、早稲田大学22号館で寝泊まりをしている男。
2時間にわたる編集部の独自インタビューに応じた彼の口から出てきたのは、早大生による驚くべきホームレス生活だった!
「つーつーおーる!」編集部が総力を挙げてお送りする自分語り調の連載「ホームレス早大生」全4回の第4回目です。
ハードの変化とソフトの変化
どうも、榊原です。これまでの#1から#3の記事を読んでもらえれば、家のない早大生がどんな生活をしているのかだいたいわかっていただけると思います。
他にも、キャンペーンに応募するときなどは、基本的には名古屋の実家の住所を書くしかなかったりといった不便だと思われるような点はいくつもあります。でも、友達さえ作っておけば友達の名前を借りて応募したり、友達の住所を書いてバイトに応募したりもできちゃうんです。
ところで、昔の早稲田と今の早稲田では変わった部分がかなりあります。一番多くの変化があったのは、おそらく早稲田キャンパスじゃないかな?
まず、入学したころには今の11号館はありませんでした。僕が2.3年の頃に建て替え始まったくらい最近。その頃一番新しい学部棟は8号館、その次が14号館です。
文キャンには、昔は33号館という校舎があって、国連ビルと呼ばれていいました。アネハ事件が起きて、耐震基準に対する調査が行われたことで、33号館は壊滅的に強度が弱いということが明らかになり、僕が入学したころには国連ビルは使えなくなってしまいました。ね、懐かしいでしょ?
僕が入学した4月に、文キャンのシンボルが使えないのは残念だと先生に言われたけど、6年生の頃、つまり2013年には新しい33号館が使えるようになりました。
ハードの面ではなく、ソフトの面も変化しているかもしれない。
8年いて思うのは、学生はだんだん平均化してきているということです。早稲田特有の野暮ったさは間違いなくなくなってきてる。日本全国から汚い男が全員集まってくるみたいな感じもしないし、バンカラの気風も薄れている、今のほうが早稲田生はよっぽど生きづらいかもしれません。
あと、国際化の強迫観念にとらわれ過ぎているているのが今の早稲田なんじゃないかな?
「国際化しないと生き残れない」のも結構だし、こっちからも学生を海外に出して、海外から学生も早稲田で学んでもらうみたいなのはいいとは思うけど、国際化を大学の方針としているのは違和感を感じます。うまく言えないけど、そんな簡単に昔のワセダから変われるものなの?って思うんです。
2013年からオープン教育センターがグローバル・エデュケーション・センターにかわっているのも大学から説明も一切なかったし、意味が分かりません。
そのほかの変化は、文カフェの営業時間が短くなって、オトボケの営業時間が伸びたぐらいかな(笑)
未来の話
実際今の自分は、卒業したいだけならほとんど卒業できる状態なんだ。1年間に10単位ぐらいずつとれていたから、単位はもうほとんど取り終わっています。
1年間で10単位ぐらいしか取れなかったのは、ヒッチハイク生活で授業に遅れることが多かったのが大きな原因でした。
そんなに留年して、親はどう思ってるかって?
親はもう半分諦めています。ヒッチハイクしてることも話したから全て知っているし、口うるさく言ってくることはありません。でも、おじいちゃんからは、「俺が生きているうちに卒業しなかったら化けて出てやるぞ!」と言われることもあります(笑)
去年、自分が1年生の頃に一緒に入学した仲間と会う機会がありました。仲間からは「俺の夢(ずっと学生でいたいという夢)をかなえてくれている!」と言われたんです。
仲間から「なんで?」って言われることもあります。なんで卒業しないのか、そもそも留年したのかを自分は説明できるけど、その人が求めているような説明はできないんだろうだなと思っています。
あと、来年からどうしようと思ってるのか?よく聞かれます。
まだ自分の中で色々な道を模索しているし、就活は本気でやろうと思っています。高校の地歴と公民を教えられるようになろうとして教職を取ったのも色々やろうとした結果なんです。
でも、これからのビジョンはありません。部屋借りなくてもなんとかなってきたし、新幹線のお金なくてもなんとかなってきたので、なんとかなる自信は持ってるんるんです。
たぶんもう、これ以上落ちることはないんじゃないかなと思っています。とにかく、頑張ってこれからも生きていきます。
感想
これまで4回にわたって、家を持っていない「ホームレス早大生」を連載してきました。
話を聞いて思うのは、大学9年目の榊原さんがこれまで苦境の中で編み出した生活の知恵は多くの早大生の生活に応用できるということです。学費も仕送りも打ち切られることは実際にはあまりなく、身から出た錆ともいえるのですが、その中で一生懸命生きている榊原さん。
早大生ならば素直に「頑張れ!」と言うべきではないでしょうか。
<完>